親との関係がしんどいと感じたとき|大人になってからの距離の取り方を考える
スマートフォンの画面に「母」と表示される。
特別な用事ではないかもしれない。それでも、すぐ電話に出る気持ちになれず、しばらく画面を眺めてしまう。
「また何か言われるかな」
「今日は長くなりそうだな」
そんなことを考えながら電話を見送ったあとで、今度は別の気持ちが浮かんでくることがあります。
「親なのに、こんなふうに思う私は冷たいのかな」
実家へ帰れば疲れる。仕事や結婚、暮らしについて細かく聞かれると気持ちが重くなる。頼まれ事を断りたいのに、「親だから」と思うと断れない。
親を嫌いになったわけではなくても、今までと同じ付き合い方を続けることに疲れることはあります。
だからといって、親との関係をすぐに「仲良くするか、縁を切るか」の二つに分けなくてもよいでしょう。
電話の回数を変える。会う時間を短くする。話さないことを決める。お金や介護については、自分一人で抱え込まない。
親との距離は、一つではありません。
まずは「親とどうするべきか」ではなく、自分は親との関係の何にいちばん疲れているのかから考えてみませんか。
- 「親なのにしんどい」と感じる自分を、すぐ責めなくていい
- 「親がしんどい」を一つにせず、何が負担なのか分けてみる
- 大人になった今、連絡の頻度を変えてもいい
- 親に「どこまで話すか」も決め直していい
- お金のことは、「親だから」で曖昧にしない
- 親の介護を考えるとき、「自分一人でやる」前提にしない
- 親の期待を聞くことと、そのとおりに生きることは別
- 距離を変えると「親不孝では」と感じることもある
- 親と直接話し合うことが、いつも一番いいとは限らない
- 暴力や虐待などは、通常の「親との距離」と分けて考える
- 介護で自分も親も追い詰められそうなら、早めに相談していい
- 泉の「親との距離」メモ
- まとめ|「親だからこうすべき」より、自分が続けられる関わり方を考える
- 参考情報
「親なのにしんどい」と感じる自分を、すぐ責めなくていい
友人や知人との関係なら、疲れたときに少し離れることを考えやすいかもしれません。
けれど、親となると話は少し違います。
「育ててもらったから」
「親も年を取ってきたから」
「できるだけ大切にしたいから」
そんな思いがあるほど、「会いたくない」「今日は電話に出たくない」と感じる自分に罪悪感を覚えることがあります。
親への感謝があることと、現在の付き合い方を負担に感じることは、必ずしも矛盾しません。
親のことを気にかけているからこそ、無理をして応え続けてしまう場合もあります。
毎日の電話に出る。
頼まれたら実家へ行く。
聞かれたことには詳しく答える。
困っていると言われれば、自分の予定を変える。
それが少しずつ重なり、「親から連絡が来るだけで疲れる」という状態になっているのかもしれません。
大事なのは、親を大切に思っているかどうかを自分に問い続けることではなく、今の関わり方が自分にとって無理のないものなのかを見ることです。
「親がしんどい」を一つにせず、何が負担なのか分けてみる
「親との関係がしんどい」と感じても、その中身は人によってかなり違います。
毎日のように電話やメッセージが来ることが負担な人もいます。
実家へ帰ること自体は嫌ではないけれど、会うたびに仕事や結婚について意見されることがつらい人もいるでしょう。
親から金銭的な援助を求められている。
高齢になった親を見ると、将来の介護が自分一人にのしかかってくるようで不安になる。
あるいは、親が望む人生と、自分が送りたい人生が違っていることに疲れているのかもしれません。
こうしたものを全部まとめて「親が嫌」と考えると、関係そのものをどうするかという大きな問題に見えてしまいます。
そこで、
「電話が多いことがつらい」
「会うたびに私生活へ口を出されることがつらい」
「お金についてどこまで応じればよいか分からない」
「将来の介護が怖い」
というように、少しずつ分けてみます。
親との関係全体を一度に変えなくても、負担になっている部分だけ距離を変えられることがあります。
大人になった今、連絡の頻度を変えてもいい
親子の連絡頻度には、いつの間にか習慣になっているものがあります。
毎晩電話をする。
届いたメッセージにはすぐ返信する。
週末になると必ず実家へ顔を出す。
以前は特に負担ではなかったことが、仕事や生活の変化によって今は重くなっている場合もあります。
昔から続けてきたからといって、これからも同じ頻度でなければならないとは限りません。
毎日の電話を数日に一度にする。
仕事中に届いたメッセージは、その日の夜や時間のあるときに返す。
毎週実家へ行っていたなら、少し間隔を空けてみる。
会う回数を変えにくければ、滞在する時間を短くすることもできます。
親からすれば、最初は「最近連絡が少ない」と感じるかもしれません。
だからといって、親の連絡をすべて無視する必要もなければ、こちらが苦しくなるまで今までどおり応じ続ける必要もありません。
昔の親子関係でちょうどよかった頻度が、今の自分にも合っているとは限らない。
そう考えてみると、少し距離を調整しやすくなります。
親に「どこまで話すか」も決め直していい
親からすると、大人になった子どもも「自分の子ども」であることに変わりはありません。
そのため、
「仕事はどうなの?」
「結婚は考えているの?」
「貯金はいくらあるの?」
「どうして引っ越さないの?」
と、さまざまなことを聞かれる場合があります。
子どもの頃は、親が学校や生活について詳しく知っていることが自然でした。
けれど、大人になった今まで、生活のすべてを詳しく伝えなければならないわけではありません。
「そのことはまだ決めていないよ」
「仕事については自分で考えているから大丈夫」
「お金のことは詳しく話さないようにしているんだ」
と、答える範囲を自分で決める方法があります。
親に反論したり、言い負かしたりすることが目的ではありません。
どこまでなら話してもよいと思えるのかを、自分側で決め直すことが中心です。
今まで何でも話してきた親だからこそ、急に境界を作ることに違和感があるかもしれません。
それでも、大人になって生活が別になれば、話すことと話さないことが少しずつ変わっていくのは不自然なことではないでしょう。
お金のことは、「親だから」で曖昧にしない
親との関係では、お金が入ることで距離を取りにくくなることがあります。
親から、
「今月だけ少し助けてほしい」
と言われる。
最初は一時的な援助だったものが、いつの間にか毎月の負担になっている。
反対に、自分が親から住宅費などの援助を受けているため、親の意見を断りにくいと感じることもあるでしょう。
こうした問題では、
「親なのだから助けるべき」
とも、
「自分のお金なのだから一切出さなくてよい」
とも一律には決められません。
一度だけの援助なのか。
これからも続く可能性があるのか。
自分の家計へどのくらい影響するのか。
ほかに利用できる制度や相談先はないのか。
少しずつ分けて考える必要があります。
親を助けたいという気持ちがあっても、自分の生活そのものが立ち行かなくなるほど負担することが唯一の方法とは限りません。
また、扶養義務など法律上の判断が必要になる場合は、家族だけで結論を出さず、行政窓口や法律の専門家へ確認するほうが安心です。
お金の問題こそ、気持ちだけで曖昧にし続けないことが、親子双方にとって必要になる場合があります。
親の介護を考えるとき、「自分一人でやる」前提にしない
親が元気なうちでも、年齢を重ねる姿を見ると、
「いつか介護が必要になったら、どうしよう」
と思うことがあります。
きょうだいがいても、自分が一番近くに住んでいる。
親から「将来は頼むね」と言われたことがある。
昔から家族の中で、自分が頼られることが多かった。
そんな事情があると、まだ介護が始まっていなくても、
「結局、全部私がやることになるのでは」
と気持ちが重くなるかもしれません。
けれど、介護は「家族の一人が直接すべてをする」ことだけを意味するものではありません。
各市町村には、介護に関する総合相談窓口として地域包括支援センターが設置されています。保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどが相談に応じ、必要なサービスや支援につなぐ役割を担っています。
介護が必要になったときだけでなく、
「最近、親の生活が少し心配になってきた」
「これから何を考えておけばよいのか分からない」
という段階から、相談先を知っておくこともできます。
親との関係が良ければ介護が楽になる、とも限りません。
反対に、親子関係が難しいからといって、すべてを自分だけで決めなければならないわけでもありません。
親との気持ちの問題と、必要な介護をどう組み立てるかは、少し分けて考えることができます。
親の期待を聞くことと、そのとおりに生きることは別
親が子どもの将来を気にかけることはあります。
「もう少し近くに住んでほしい」
「結婚したほうがいいんじゃない?」
「今の仕事は大変そうだから辞めたら?」
「もっと実家へ顔を出してほしい」
親にとっては、心配や愛情から出ている言葉かもしれません。
それでも、その希望が自分の望む生活と同じとは限りません。
親の意見を聞くことと、その意見どおりに人生を決めることは別です。
反対したり、親の価値観を否定したりしなくても、
「そう思っているんだね。でも私は今の仕事を続けようと思っている」
と、自分の選択を残すことはできます。
ここで「親離れできていない」「子離れできていない」と、どちらかを問題のある側として決めつける必要もありません。
親には親の希望がある。
自分には自分の希望がある。
その二つが違うまま存在することもあります。
親を納得させてから自分の人生を選ばなければならないわけではありません。
距離を変えると「親不孝では」と感じることもある
毎日出ていた電話に、今日は出なかった。
実家へ行く回数を少し減らした。
「今週は無理」と頼み事を断った。
その直後は少し楽になったのに、夜になると、
「あと何年、一緒にいられるか分からないのに」
「もっと親を大切にしたほうがいいのでは」
と考え始めることがあります。
罪悪感が出てくること自体を、なくそうとしなくてもよいでしょう。
親を気にかける気持ちがあるからこそ、距離を変えることに迷う場合もあります。
ただ、
罪悪感を覚えたことと、元の付き合い方へ戻さなければならないことは別です。
電話へ毎回出ることだけが親を大切にする方法ではありません。
長時間一緒に過ごすことだけが親孝行とも限らないでしょう。
少し距離を置くことで、会ったときに穏やかに話せるようになることもあります。
「どれだけ近いか」ではなく、「どんな関わりなら続けられるか」という視点を持ってみてもよいのではないでしょうか。
親と直接話し合うことが、いつも一番いいとは限らない
比較的落ち着いて話せる親なら、自分の希望を伝えられる場合があります。
「平日は仕事があるから、電話は週末にゆっくり話そう」
「今度は泊まらず、夕方には帰るね」
「そのことは自分で考えたいから、少し任せてほしい」
相手の人格を否定せず、自分ができる範囲を伝える方法です。
けれど、すべての親子関係で直接話し合うことが適しているわけではありません。
意見を伝えると激しく怒られる。
威圧される。
お金や住居などを使って行動を強く制限される。
暴力や脅迫がある。
話し合おうとすると、かえって危険を感じる。
そのような場合に、
「親子なのだから、まず本音で話し合いましょう」
とする必要はありません。
自分一人で解決しようとせず、第三者や公的な相談先を利用することも考えてください。
暴力や虐待などは、通常の「親との距離」と分けて考える
親との価値観が合わない。
口うるさく感じる。
連絡が多くて疲れる。
そうした悩みと、暴力や脅迫など安全に関わる問題は同じではありません。
身体的な暴力がある。
強く脅されている。
著しい侮辱や人権侵害が続いている。
経済面などを使った深刻な支配があり、安全に不安を感じている。
このような場合は、「親との適度な距離」を自分一人で探すことだけを優先しなくて構いません。
法務省の「みんなの人権110番」では、差別や虐待、ハラスメントなど、さまざまな人権問題について相談を受け付けています。
また、
「犯罪になるのかは分からないけれど怖い」
「警察へ相談してよい状況なのか迷っている」
というときには、警察相談専用電話「#9110」を利用できます。
今まさに事件や事故が起きているなど、緊急の対応が必要な場合は110番です。
親だから相談してはいけない、ということはありません。
まず自分で問題に名前を付けることより、安全を確保することを優先してください。
介護で自分も親も追い詰められそうなら、早めに相談していい
親の介護が始まると、これまでの親子関係だけでは説明できない負担が重なることがあります。
夜中にも何度も呼ばれる。
仕事と介護の両立が難しくなる。
自分以外に頼れる家族がいない。
親へ優しくしたいと思っているのに、強い言葉を返しそうになる。
そんな状態になったとき、
「親なのだから、もっと優しくしなければ」
という気持ちだけで耐えると、自分も親も追い詰められてしまうことがあります。
厚生労働省の高齢者虐待への対応に関する国のマニュアルでは、高齢者本人への対応だけでなく、介護などを担う養護者への支援も扱われています。
つまり、家族が限界に近づいているとき、支援を必要としているのは親だけとは限りません。
「このままだと自分にも余裕がなくなる」
と感じた段階で、地域包括支援センターなどへ相談して構いません。
相談することは、「介護ができない人だと認めること」ではありません。
一人で抱え込まないために、使える支援を探す行動でもあります。
泉の「親との距離」メモ
親との関係を判定するための質問ではありません。
今の自分が、どこで無理をしているのかを少し整理するために使ってみてください。
- 親との関係で、今いちばん負担になっているのは何?
- 電話やメッセージの頻度は、今の自分に無理がない?
- 会う回数ではなく、一緒にいる時間を変えるだけでも少し楽になりそう?
- 親には本当は話したくないのに、詳しく話していることはある?
- お金について、曖昧なまま引き受けていることはない?
- 将来の介護を「自分が全部やる」と決めつけていない?
- 親が望んでいることと、自分が望んでいることが混ざっていない?
- 「距離を変える」だけでは対応できない怖さや危険を感じていない?
すぐに答えが出なくても構いません。
「電話が嫌なのではなく、毎日なのがつらかった」
「実家へ行くことより、長時間いることに疲れていた」
と分かるだけでも、考えられる距離は変わってきます。
まとめ|「親だからこうすべき」より、自分が続けられる関わり方を考える
親との関係にしんどさを感じたとき、
「親なのだから仲良くしなければ」
と自分を責める必要も、
「こんなに疲れるなら関係を切るしかない」
とすぐに結論を出す必要もありません。
まず、
「私は親との何に疲れているのだろう」
と考えてみる。
連絡が多いなら、頻度を変える。
会うと疲れるなら、滞在時間を短くする。
私生活への干渉がつらいなら、話す内容を少し減らす。
お金について迷っているなら、どこまでなら引き受けられるか考える。
介護への不安があるなら、自分だけで背負う前に相談先や利用できる支援を知っておく。
親との距離を全部同じように遠ざけなくても構いません。
電話は少し減らすけれど、会ったときにはゆっくり話す。
お金の援助は難しいけれど、別の方法で手伝う。
そんな関わり方もあります。
親との距離を変えることは、必ずしも親との関係を捨てることではありません。
「私は親と、どのくらいの距離なら無理なく関係を続けられる?」
その問いから、自分にできる関わり方を考えてみてください。
そして、暴力や虐待など安全に関わる問題や、介護で自分も親も追い詰められている状況なら、親子だけで解決しようとせず、外の力を借りることも選択肢です。
今すぐ親との関係すべてに答えを出さなくても構いません。
まず一つ、負担になっているところから距離を見直す。それも、大人になってから親との関係を考える方法の一つです。
参考情報
確認日:2026年9月13日
厚生労働省「家族介護に直面している方への支援を知りたい」
地域包括支援センターが全ての市町村に設置された介護の総合相談窓口であること、家族介護者への相談支援等を確認。
URL:https://www.mhlw.go.jp/shushoku_hyogaki_shien/family-care/
厚生労働省「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について(国マニュアル)」
2026年3月改訂版を確認。高齢者虐待への対応と、介護等を担う養護者への支援について参照。
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000200478_00004.html
法務省「常設相談所(法務局・地方法務局・支局内)」
差別、虐待、ハラスメントなどについて相談できる「みんなの人権110番」等の現行情報を確認。
URL:https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken20
警察庁「公的機関【刑事・民事手続関係】|犯罪被害者等施策ホームページ」
犯罪に当たるか分からない段階を含め、警察への相談全般を受け付ける警察相談専用電話「#9110」の現行情報を確認。
URL:https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/portal/search/madoguchi/04/index.html
J-STAGE「中年女性の実母との関係性―年代と母親の健康状態からの検討―」
40〜60代女性624人を対象とした、成人した女性と実母との関係に関する国内研究として補助的に参照。
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/pacjpa/84/0/84_PO-038/_article/-char/ja/
J-STAGE「将来的な母親介護に対する中年期娘の意識―母娘関係が与える影響―」
実母が生存する中年期女性56人を対象とした、母娘関係と将来の介護意識に関する国内研究として、調査規模等の限界を踏まえて補助的に参照。
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/shes/23/1/23_17/_article/-char/ja/

