職場の上司との関係に疲れたとき|我慢する・距離を取る・相談するを考える
仕事から帰ってきたのに、昼間に上司から言われた一言が頭から離れない。翌日の報告を考えるだけで気が重くなり、社内チャットの通知が届くと、開く前に少しためらってしまう。
仕事そのものが嫌いなわけではないのに、「あの人と一緒に働くこと」がつらくなっている――。職場では毎日のように顔を合わせる相手だからこそ、上司との関係は思っている以上に仕事全体の感じ方へ影響します。
それでも、「人間関係くらいで弱音を吐いてはいけない」「どこの職場にも合わない人はいる」と、自分のつらさを小さく扱ってしまうこともあるでしょう。
一方で、上司と合わないからといって、すぐに仕事を辞めなければならないわけでもありません。
まず考えてみたいのは、自分は上司との関係の何に疲れているのかということです。関わり方を少し変えられる場合もあれば、一人で対応せず、誰かへ相談したほうがよい問題もあります。
「我慢するか、辞めるか」の二択にする前に、今の状況を少しずつ分けて考えてみましょう。
上司との関係に疲れたとき、まず「何がつらいのか」を分けてみる
「上司が嫌だ」と感じているとき、その気持ちの中には、いくつもの理由が重なっていることがあります。
たとえば、指示が曖昧なのに後から責められる。仕事を細かく確認されることに息苦しさを感じる。人前で強い口調で注意される。こちらの話を最後まで聞いてもらえない。仕事とは関係のない私生活について何度も聞かれる。
反対に、特定の言動というより、仕事の進め方や考え方がどうしても合わないということもあります。
ここで無理に「どちらが悪いのか」を決める必要はありません。
少し立ち止まって、
「上司という存在そのものが嫌なのか」
「それとも、特定の言葉や行動、特定の場面がつらいのか」
を分けてみると、次に考えることが見えやすくなります。
たとえば、口頭で急に指示を変えられることが一番の負担なら、指示の確認方法を変えられる余地があるかもしれません。一方、繰り返し侮辱されたり、威圧されたりしているのであれば、本人との関わり方を工夫するだけでは済まない可能性があります。
つらさを言葉にするのは、相手を責めるためではありません。自分が何に消耗しているのかを知るためです。
「上司と合わないこと」と「問題のある言動」は分けて考える
職場では、価値観も仕事の進め方も異なる人と一緒に働きます。
報告を細かく求める上司と、自分である程度判断して進めたい部下。スピードを重視する上司と、確認を重ねてから進めたい部下。その違いが積み重なると、上司との関係そのものが負担になることがあります。
こうした相性やコミュニケーションのずれがあるからといって、すべてがパワーハラスメントになるわけではありません。
厚生労働省では、職場のパワーハラスメントを、①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超え、③労働者の就業環境が害されるもの、という3つの要素をすべて満たすものとしています。
また、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、直ちにパワーハラスメントに当たるものではありません。
ただし、それは「仕事の指導なら何を言ってもよい」という意味でもありません。
厚生労働省は、代表的な例として、暴行・傷害などの「身体的な攻撃」、脅迫・侮辱・ひどい暴言などの「精神的な攻撃」、隔離・仲間外し・無視などの「人間関係からの切り離し」のほか、過大な要求、過小な要求、私的なことへ過度に立ち入る「個の侵害」という6類型を示しています。
これらはあくまで代表例であり、実際にパワーハラスメントに該当するかどうかは、具体的な状況によって判断が変わります。
だからこそ、「厳しく注意されたからパワハラだ」とすぐに決める必要も、「自分にも悪いところがあるから仕方がない」と一人で結論を出す必要もありません。
判断に迷っている段階でも、相談することはできます。
我慢する前に、関わり方を少し変えられるか考える
上司との問題が、仕事の進め方やコミュニケーションのずれから生じている場合、関係を大きく変えなくても負担を減らせることがあります。
たとえば、口頭で受けた指示について「先ほどのお話は、この内容で進める認識で合っていますか」とメールやチャットで確認しておけば、後から認識の違いが起きにくくなるかもしれません。
上司との雑談で私生活まで聞かれることが負担なら、すべてに詳しく答えるのではなく、仕事に関係する話題へ自然に戻す方法もあります。
二人きりになると強く緊張するのであれば、可能な範囲で他の人がいる場面で報告や確認をするという考え方もあるでしょう。
ここで目指すのは、上司を変えることでも、上司とうまく付き合える人になることでもありません。
自分が必要以上に消耗しない関わり方にできないかを見ることです。
もちろん、工夫をしても関係が変わらない場合はあります。こちら側だけが努力し続けなければ成り立たない関係なら、そのこと自体も考える材料になります。
上司本人へ伝えることが、いつも正解とは限らない
比較的落ち着いて話せる相手なら、自分が困っていることを具体的に伝える方法もあります。
「予定変更が直前になると対応が難しいので、分かる範囲で早めに共有してもらえると助かります」
「複数の指示をいただいたときは、優先順位も確認させてください」
このように、人柄そのものを批判するのではなく、仕事上困っている場面と希望する対応を伝えられる場合もあります。
ただし、「まず本人と話し合うこと」がすべてのケースで必要なわけではありません。
怒鳴られることが続いている。威圧や脅迫を感じる。暴力がある。相談したことへの報復が怖い。本人へ伝えることで状況が悪化しそうだと感じている。
そのような状況で、無理に一対一の話し合いをする必要はありません。
安全や心身への負担が気になるときは、上司本人ではなく、別の管理職、人事・労務担当、社内の相談窓口などへ先に相談する方法があります。
「自分からきちんと伝えられなかったからいけない」と考える必要もありません。
「相談する」は、上司を告発することと同じではない
誰かへ相談することにためらいを感じる人もいるでしょう。
「こんなことで相談していいのだろうか」
「話したら大ごとになるのでは」
「上司を悪者にしたいわけではない」
そう考えて、もう少し我慢しようとしてしまうこともあります。
けれど、相談は必ずしも「相手を処分してほしい」と申し立てることだけを意味しません。
「自分の受け止め方がおかしいのか分からない」
「今の状況をどう整理すればよいのか迷っている」
という段階で、第三者へ話しても構いません。
直属の上司以外の管理職、人事・労務担当者、社内相談窓口、信頼できる同僚など、相談先はいくつか考えられます。
パワーハラスメントについては、事業主には相談へ適切に対応するための体制を整えることや、相談後に事実関係を迅速かつ正確に確認し、必要な措置や再発防止を行うことなどが求められています。
また、相談したことや事実確認に協力したことなどを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることは禁止されています。
社内で相談するときには、「何を相談したいのか」がまだはっきりしていなくても構いません。話しながら整理されていくこともあります。
パワハラかもしれないと思ったら、一人で判定しようとしなくていい
インターネットで「これはパワハラなのか」と検索し続けても、自分のケースがはっきりしないことがあります。
似た事例を読んでは「やっぱりパワハラかもしれない」と思い、別の記事を読んでは「これくらいでは違うのかもしれない」と迷う。そうしているうちに、判断すること自体に疲れてしまうこともあるでしょう。
自分で法的な結論まで出す必要はありません。
もしハラスメントではないかと感じる言動が続いているなら、出来事を後から振り返れるようにしておくことは一つの方法です。
いつ、どこで、誰から、どのようなことを言われたり、されたりしたのか。そのとき周囲に誰がいたのか。分かる範囲でメモしておけば、相談するときに状況を説明しやすくなります。
厚生労働省の「あかるい職場応援団」でも、ハラスメントと思われる行為について、日時や場所、相手、内容などを記録しておくことが案内されています。
ただし、「十分な証拠が集まるまで相談できない」ということではありません。
記録が十分でなくても、困っている段階で相談先へ話すことはできます。
会社の中で相談しにくければ、外部の公的窓口もある
上司が経営者に近い立場にいる。小さな職場で相談内容が知られることに不安がある。人事へ話したものの、十分に対応してもらえなかった。
そのような場合、社内だけで何とかしなければならないわけではありません。
厚生労働省の「総合労働相談コーナー」では、パワーハラスメントやいじめ・嫌がらせを含む幅広い労働問題について、専門の相談員が面談または電話で相談を受け付けています。利用は無料で、予約は不要とされています。
また、個別の労働紛争については、都道府県労働局長による助言・指導や、紛争調整委員会によるあっせんという仕組みも設けられています。
制度の名前を見ると大げさに感じるかもしれませんが、最初から何らかの手続きを申し立てなければならないわけではありません。
まず「こういうことで困っている」と相談し、利用できる制度について説明を受けることもできます。
社内で話せる相手が見つからないからといって、相談先そのものがなくなるわけではありません。
心や体までつらくなっているなら、関係改善だけを目標にしない
上司との関係について考えるとき、どうしても「どうすればうまく付き合えるか」に意識が向きがちです。
けれど、仕事から帰ったあともずっと気持ちが張りつめている。夜になっても眠れない日が続く。食事が取りにくくなった。出勤することを考えると強い心身の不調を感じる。
そこまで日常生活へ影響が広がっているのであれば、上司との関係をどう改善するかだけではなく、今の自分の状態をどう守るかにも目を向けたいところです。
この記事だけで「うつ病」「適応障害」などと判断することはできませんし、仕事を辞めれば症状がよくなるとも一概には言えません。
一方、つらさが続いているのに、「人間関係の問題だから」と耐え続ける必要もありません。
厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」では、働く人や家族などを対象に、電話、SNS、メールによる相談窓口が用意されています。必要に応じて医療機関などへ相談することも考えてください。
職場の問題を解決することと、自分の心身を守ることは、別々に考えてもよいのです。
異動や転職を考えることもできる。でも、それだけが答えではない
上司との関係がつらいと、「もうこの会社を辞めるしかない」と考えることがあります。
実際、環境を変えることが選択肢になる場合もあるでしょう。
ただ、転職だけが関係を変える方法とは限りません。
上司との関わり方を調整する。社内で相談する。担当や部署を変えられないか考える。そして、それでも状況が変わらないのであれば、別の職場を探すことも検討する。
どこまでできるかは、会社の規模や制度、自分の立場によっても異なります。
上司との関係だけでなく、「仕事そのものを続けたいのか分からなくなっている」という場合は、仕事の何を変えたいのかから整理してみてもよいでしょう。
一方、「今の職場を離れたい」という気持ちがはっきりしてきたなら、次の職場で何を変えたいのかまで考えてみることが、転職を考える手がかりになります。
上司との関係をきっかけに働き方を見直すことはあっても、焦ってその日のうちに人生全体の答えを出す必要はありません。
泉の「上司との距離」メモ
答えを誰かに見せる必要はありません。少し時間のあるときに、今の気持ちを確かめるつもりで考えてみてください。
- 私は、上司の何に一番疲れている?
- 特につらく感じるのは、どんな場面?
- 毎回つらいのか、それとも特定の言動や状況がつらい?
- 関わり方を少し変えることで、負担が減りそうな部分はある?
- 今の状況について、安心して話せそうな人はいる?
- 上司へ直接伝えることに、怖さや危険を感じていない?
- この仕事を続けるとしたら、守りたいものは何?
- 今の自分に必要なのは、我慢ではなく相談ではないだろうか?
全部に答えが出なくても構いません。
「何が嫌なのか自分でも分からない」と思っていた気持ちが、少し言葉になれば、それだけでも次に考えることが変わってきます。
まとめ|「我慢するか辞めるか」だけで考えなくていい
上司との関係に疲れていると、毎日の小さな出来事まで重く感じることがあります。
だからといって、上司を好きになったり、何とかして良い関係を作ったりすることだけを目標にしなくてもよいでしょう。
まず考えたいのは、
「私は何に疲れているのか」
「関わり方を変えられるところはあるのか」
「これは自分一人で対応する問題なのか」
ということです。
仕事の進め方やコミュニケーションの違いなら、距離や関わり方を調整することで負担が軽くなることがあります。
一方で、暴力や脅迫、侮辱、強い威圧など、安全や就業環境に関わる問題があるなら、「うまく付き合う方法」を探すことだけにこだわる必要はありません。社内外の相談先を利用することも選択肢です。
そして、心や体への負担が大きくなっているときには、関係をどう改善するかより、自分の状態を守ることを先に考えても構いません。
上司との関係に疲れたとき、選択肢は「我慢する」か「辞める」かだけではありません。
今すぐ結論を出せなくても、何がつらいのかを確かめること、誰かへ話すこと、少し距離を変えてみること。その一つひとつも、今の働き方を考え直すための選択肢になります。
参考情報
確認日:2026年9月13日
厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
職場のパワーハラスメント防止措置、相談体制、事実確認、再発防止、相談者等への不利益取扱いの禁止などを確認。
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/
厚生労働省「あかるい職場応援団|パワーハラスメントとは」
職場のパワーハラスメントの代表的な6類型と、それぞれの考え方を確認。
URL:https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/harassment_list/power-hara/
厚生労働省「あかるい職場応援団|悩んでいる方」
パワーハラスメントの3要素、適正な業務指示・指導との区別、記録や相談に関する情報を確認。
URL:https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/worry/
厚生労働省「個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)」
総合労働相談、都道府県労働局長による助言・指導、紛争調整委員会によるあっせんの仕組みを確認。
URL:https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/index.html
厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
パワーハラスメント、いじめ・嫌がらせなどを含む労働問題について、無料・予約不要で相談できること等を確認。
URL:https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html
厚生労働省「こころの耳|相談窓口」
働く人や家族などを対象とした電話・SNS・メール相談の現行情報を確認。
URL:https://kokoro.mhlw.go.jp/soudan/

